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ピアノ教師の考え事を綴っています。

【書評】 ベートーヴェンの生涯 by ロマン・ロラン

こんにちは。ピアノ教師・渡邊智子です。

東京の小金井市と三鷹市でピアノ教室を開いています。

ピアノ教室 小金井 三鷹 武蔵境 | 渡邊ピアノ教室

  

私の目下の課題の一つは、「積ん読本を消化する!」。

当然、興味があって買った本ばかりなのですが、少し置き去りにしていたせいで存在を忘れてしまったり、ちょっと厚めの本だと「時間が無いし…」という理由で放置していたりする物もあります。

このまま放置するはいたたまれないので、目標を持って解消していくことにしました。

という訳で、手始めに薄めの本から。

 

ベートーヴェンの生涯 (岩波文庫)

 

全体で200ページ程の文庫本ですが、『ベートーヴェンの生涯』本文は60ページ程度しかありません。その60ページしかない本文に対して、約30ページもの原注が付いていてます。原注だけでも読み応えあり。

そして、本の残り約100ページには有名な『ハイリゲンシュタットの遺書』や『ベートーヴェンの手紙』、ロマン・ロランが述べた『ベートーヴェンへの感謝』などが収められています。これらは、ベートーヴェンの音楽や人間関係に詳しくないと分からない文章もありますが、『ベートーヴェンの思想断片』は偉人の名言集として読み手を選ばない内容だと思います。

 

ロマン・ロランは、ノーベル文学賞を受賞した高名な作家なので、著作を読んだことはなくても、名前は聞いたことがあるという方は多いでしょう。

代表作はこちら↓

ジャン・クリストフ 全4冊 (岩波文庫)

音楽家を主人公にした長編作品(岩波文庫で全4巻)です。

私は恥ずかしながら未読のため、折を見て読んでみたいと思っています。

 

作品についての感想

 

『ベートーヴェンの生涯』は、著者が33歳の時に発表した作品で、当時大きな反響を呼び、彼の代表作となりました。

偉人の伝記というと、その人の人生の年表を追っているだけで、読み物としては面白くないイメージがあるのですが(私個人の偏見)、この作品は違います。

もちろん、題名の通り「ベートーヴェンの生涯」を書いたものではあるのですが、彼の人生においての出来事を細部まで知りたい方には物足りないかもしれません。その代わり、私のように通常の「よくある伝記」には食指が動かない方には、さらっと読めて文学作品としても楽しめるという点でお薦めです。

 

一方で、音楽に精通していない人が読むとどうなのかな?、という懸念も持ちました。

というのも、具体的な曲名と曲想についての記述が頻繁に出てくるため、ベートーヴェンの曲をあまり知らない人にとっては、その部分が理解できない内容になってしまうように思ったからです。

私自身、ピアノが専門なので「ピアノ・ソナタ」などの記載があれば「ああ、あの曲ね。」と思い浮かべることができましたが、「宗教歌曲」などと書いてあると「どんな曲だろう?」と思った部分もありました。

ですが、ベートーヴェンの有名な作品(交響曲や、演奏会でよく取り上げられる器楽曲)をだいたい知っていれば問題無く読み進められますし、たとえ音楽的な内容を充分理解できなくても、文学作品として楽しむことはできます。

あまりにも曲が分からないという場合は、YouTubeなどで曲を調べて聴きながら読むのも面白いかもしれないですね。

 

また演奏者視点から言うと、ある出来事が具体的な曲名と合わせて述べられていることで、その曲イメージを膨らませる参考にすることができます。

私は、あまり感受性が豊かな人間ではないため、学生時代には、演奏する曲に自分なりのイメージを持つことが難しいことが多くありました。それをカバーするために、他の人がその曲に対して持っているイメージを知ることが役に立ちました。著名な演奏家や作曲家の本、音楽について論じた文章などを読むことで、徐々に音楽に対して自分なりのイメージを作ることができるようになってきます。

『ベートーヴェンの生涯』は、ロマン・ロランの音楽評という側面もあり、感性を養う上での助けになると思います。その意味では、付録の『ベートーヴェンへの感謝』も必読です。

 

余談ですが、名演奏家の曲に対するイメージの持ち方を知るには、以下の1冊もお薦めです。

 

リヒテルは語る (ちくま学芸文庫)

 

ベートーヴェンの人物像

 

この先は、『ベートーヴェンの生涯』を読んで、私が感じたベートーヴェン像を書いていきたいと思います。

 

たとえば今、一人の困窮している友に僕が出逢うとする。僕の財布が即座に彼を助力してやれないととすれば僕は自分の机に向かって坐りさえすればいい。たちまちにその友人は助かるわけだ。……これは素敵な状態だといえるではないか……

 (31ページより)

 

人は「ギバー(与える人)」「テイカー(奪う人)」「マッチャー(損得のバランスを取る人)」に分類されるという研究がありますが、ベートーヴェンは「ギバー」だったようですね。

ベートーヴェンの生涯を考える時、耳の病は切り離すことができない事柄です。音楽家にとっての生命線である耳を侵されながら、強い気持ちで音楽と向き合い人生を全うできたのは、「自分の芸術が人々の役に立つ」という信念があったからなのかな、という感想を持ちました。

 

彼は自己に課せられていると感じた義務についてしばしば語っている、それは、自己の芸術を通じて「不幸な人類のため」「未来の人類のため」に働き、人類に善行を致し、人類に勇気を鼓舞し、その眠りを揺り覚まし、その卑怯さを鞭打つことの義務である。

(70ページより)

 

晩年に生じる甥とのトラブルについても、「与えたい」思いが強すぎた故、という見方ができるように思います。それでも、その甥に全財産を残すあたりも「与える人」という印象を受けました。

 

当然のことですが、実在の人物について書かれた文章を読む際は、著者のフィルターを通してその人物を見ることになります。

音楽家としての名声は手に入れながらも、決して裕福だったわけではなく、病気に苦しみ、人間関係でも打ちのめされ、それでも強く生き抜いたベートーヴェン。ロマン・ロランは、この物語の最後に、ベートーヴェンが人生で最も渇望した「歓喜」を掴んだとしています。

この短い伝記小説からは、ロマン・ロランのベートーヴェン愛が溢れているように感じました。