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ピアノ教師の考え事を綴っています。

【書評】蜜蜂と遠雷 (著)恩田陸

遅ればせながら、『蜜蜂と遠雷』読みました!

ちょうど直木賞と本屋大賞を同時受賞した頃、母に「面白かったから読んでみたら?」と言われ借りたのですが、そのまま放置…。受賞が2017年のことなので、約2年放置してたってことでしょうか。ごめんなさい、としか言いようがないです。

ハードカバーの本って重くて、なんとなく手が伸びないのよね。と言い訳していたら、最近、文庫化されてしまいましたね。店頭に平積みされているのをよく見かけます。

 

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫) 

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

 

既に読んだという方も多いと思いますが、一応説明すると、ピアノコンクールを舞台に、参加者たちの交流と成長が描かれた小説です。

 

モデルとなったコンクールは、浜松国際ピアノコンクール。

有名ピアニストを輩出し続けている超ハイレベルなコンクールです。例えば、チャイコフスキー・コンクール優勝者の上原彩子、ショパン・コンクール優勝者のラファウ・ブレハッチも過去に出場していました。

作者の恩田陸さんは、この浜松国際ピアノコンクールを4回も観に行って取材を重ねたそうです。3年ごとに開催されるコンクールなので、12年間も費やしたという計算になります。

小説の内容からも、ピアノコンクールの内情をよく調べて書いたことが伝わってきましたし、ピアノや音楽全般についても相当勉強されたのだろうと思いました。

 

本を広げて、最初に興味を惹かれたのは、目次の後に続く3ページ。

見開きの目次をめくると、そこには「コンクール課題曲」が載っています。

ピアノコンクールの要綱を見たことのある方なら分かると思いますが、この「コンクール課題曲」が、かなりちゃんとしていて、そのまま実際のコンクールで使えるような内容になっています。私はこのページを見た時に、この小説を読んでガッカリすることはなさそうだと予感しました。

そして、「コンクール課題曲」の次のページには「登場人物の演奏曲」、つまりそれぞれの人物が課題曲から何を選んで演奏するのかが載っています。クラシック音楽に詳しい方なら、本編を読む前に、演奏曲のリストを見ながら一人一人の個性を想像してみるのも楽しいです。

 

コンクールに参加する主要人物は4名。以下、簡単に紹介します。

 

風間塵…16歳。養蜂家の息子。ピアノを持っていないのにとてつもなく弾ける。

栄伝亜夜…20歳。かつて天才少女ともてはやされたが、突然退いた過去を持つ。

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール…19歳。優勝候補。

高島明石…28歳。楽器店で働く一児の父。

 

年齢、経歴とも様々な4名ですね。

この他にも、審査員を務める音楽家たち、コンクールの裏方の人たちなどが登場します。全体で500ページ程ある小説の最初の100ページが登場人物の紹介に充てられていることからも、一人一人の人物設定がしっかりしていることが分かります。

特にコンクール出場者の4名については、音楽との関わり方や、コンクールへの意気込み、過去の出来事や現在の環境など、それぞれの人物の背景が詳しく描かれていて、その人物がコンクール本番でどんな演奏をするのだろうという期待感を持たせてくれます。

 

第一次予選から本選までの物語は、時間軸に沿って進んでいきますが、全編通して、とにかく音楽の描写の多さに圧倒されました。

私個人の意見ですが、音楽を言葉で表すのは不可能だと思っています。どれだけ雄弁に語られても、やはり実際聴いてみないことには、どんな曲なのか分かりません。結局「聴かなきゃ分からない」ので、音楽関係の本やCDの曲目解説などを読んでいると、音楽の描写につまらなく感じることがあります。

ですが、その曲に対して演奏者がどんな想いを持っているのか、聴いている一人一人がどう受け取っているのか、ということは、むしろ言葉にしないと分からないです。

この小説では、音楽そのものというより、音楽によって湧き出る登場人物の気持ちが描写されているので、私のような「読むより聴いた方がいい」と思っている方にも読みやすいと感じました。また、クラシック音楽に詳しくない方が、出てくる曲を知らない状態で読んでも、ちゃんと物語に入っていくことができると思います。

 

物語の流れを見た時、普通に考えると、コンクールは本選が最大の勝負所で、小説のクライマックスも本選に持ってくるのだろうと予想されます。

ですが、この小説では第三次予選に重点が置かれていると感じました。特に、塵と亜夜の成長が物語の核になっていて、第三次予選で二人が経験する心境の変化が大きな山場と言えます。

本選の模様も描かれてはいますが、比較的あっさりしていますし、最終結果は後日談として触れられている程度でした。順位、競争を描くことが目的ではないということでしょうか。

コンクールというと、裏で黒い取引がありそうとか(実際あるのかもしれませんが)、色々想像される方もいるかもしれません。『蜜蜂と遠雷』でもそんな嫌な部分に少しは触れていますが、それ以上に登場人物たちの成長が爽やかに描かれた後味の良い小説でした。

クラシック音楽に興味が無い方にも、ぜひ読んでもらいたい1冊です。

もしクラシック音楽に詳しくない方が、この小説を読みながらクラシックに少し触れてみたいと思われたら、作中に出てくる曲を聴きながら読むのも面白いですよ。

 

『蜜蜂と遠雷』ピアノ全集[完全盤](8CD)

 

 

秋には映画『蜜蜂と遠雷』も公開されるそうです。

当然、吹き替えのピアニストが誰なのか気になったので調べたところ、主要人物4名の演奏は以下のピアニストになっていました。

 

栄伝亜夜…河村尚子

高島明石…福間洸太朗

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール…金子三勇士

風間塵…藤田真央(チャイコフスキーコンクール第2位。おめでとうございます!)

 

だいぶ豪華なメンバーです。これは映画館で観るべきかな。

なるべく音響の良い映画館で観たいですね!